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おしえのきせき

押絵の奇蹟

夢野 久作

「新青年」1929(昭和4)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 58,749 字 · 114 页

青空文庫

ホホホホ。何なら明日は日曜ですから連れてって下さいませんか。私もトシ子さんぐらい久し振りですから……」

すると岡沢先生も、何も御存じないらしくニコニコして二人の顔を御覧になりました。

「ウン。俺もそう思うとったところだ。歌舞伎座は田舎者が見るもの位に思うておったのじゃからツイ、ウッカリして忘れておった。ハハハハハ。しかし何ぼ何でも、そんな引っこき詰めのグルグル巻の頭では不可んぞ。伊豆の大島に岡沢の親戚があるように思われては困るからの……」

「……まあ。あんな可哀想なことを……」

そんな御冗談のうちに先生御夫婦はいろいろと私に歌舞伎芝居のお話をしてお聞かせになりました。音楽と劇の関係とか拍子木の音楽的価値と舞台表現の関係とかいうような、興味深いお話が、それからそれへと尽きませんでしたが、私はただもう上の空で、ともすれば出かかる溜め息を押え押え御飯を口に運んでおりましたので、みんな忘れてしまいました。ただその中で耳に止まりましたのは奥様から聞きましたお話で、明日の芸題の中心になっておりますのが、それこそ不思議な因縁と申すもので御座いましょう、あなた様のお家の芸となっております阿古屋の琴責めにきまっておりますこと。