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おしえのきせき

押絵の奇蹟

夢野 久作

「新青年」1929(昭和4)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 58,749 字 · 114 页

青空文庫

その時にどこかで何かを見て感じたのでしょう。今度の旅行のお土産だといって、こんな衣裳を工夫し出しますと、これが一番いいというので一代改めなかったのだそうです。

しかし御承知の通り父はとても凝り性でしたので、指し図がなかなか八釜しくて職人は面喰い通しだったそうです。型の方も特にこの衣裳のために改めた箇所があります位で、初め「あずまや」と申しまして某家の御秘蔵品を模した唐織好みの草色の裲襠を着て出て来るのですが、琴にかかる前にうしろ向きになって、その裲襠を脱いで、正面に直るまでに衣裳の全体を皆様にお眼にかけるようになっております。

ところで、その牡丹の花の中で開いている五ツと、その上に飛んでいる三ツの蝶々は、造り物で浮かしてありまして、シグサのたんびにユラユラと動くようにしてありますので、衣裳に台座を作っておいて、裲襠を脱ぐ時に一々手早く止めさせるという凝りようです。そのほか、隅々まで舞台栄えばかりを主眼にしてありまして、利き処利き処には無闇と針金や鯨鬚や鉛玉なんぞを使ってあるのですが、それでいてスッキリと、しなやかにという注文ですから職人もよっぽど屁古垂れたことでしょう。