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ごうもんのはなし
拷問の話
岡本 綺堂
「新小説」1924(大正13)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,111 字 · 16 页
こういうたぐいの罪人に対しては、理非をいい聞かせても無駄である。普通の拷問を加えても無効である。奉行所ではかれに対して更に惨酷なる拷問を加えることになって、九月二十二日には笞打のほかに海老責を行った。海老責は罪人を赤裸にして、先ず両手をうしろに縛りあげ、からだを前にかがめさせて、その両足を組みあわせて厳しく引っ縛り、更にその両足を頤にこすり付くまでに引きあげて、肩から背にかけて縛りつけるのであるから、彼は文字通りに海老のような形になって、押潰されたように平た張り伏しているのである。この拷問をうけるものは、はじめは惣身が赤くなり、更に暗紫色に変じて冷汗をしきりに流し、それがまた蒼白に変じるときは即ち絶命する時であるといい伝えられているので、皮膚に蒼白の色を呈するのを合図にその拷問を中止することになっていた。吉五郎はこの試錬をも通過して、無事に牢内に帰った。かれが今日は海老責に逢うことを牢屋附の下男の内報によって、牢内でも薄々承知していたので、ひそかにその安否を気配っていると、かれは問い落されもせず、責め殺されもせず、弱りながらも無事に帰って来たので、牢内の者どもは跳りあがって喜んだ。