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ごうもんのはなし
拷問の話
岡本 綺堂
「新小説」1924(大正13)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,111 字 · 16 页
その呼吸を呑み込んでいる罪人は、自分の体力の堪え得るかぎりはあくまでもその苦痛を忍んで強情を張り通そうとするのである。吉五郎もその一人であった。彼は生に対する強い執着心からこうして一日でも生きていようとしたのか、あるいは召捕または吟味の際に係り役人に対して何かの強い反感をいだいて、意地づくでも白状しまいと覚悟したのか、それは判らない。しかし彼が寃罪でないことは明白であった。
吉五郎は八月十一日によび出されて、第二回の拷問をうけた。それは前回とおなじく、笞打(記録には縛り敲きとある。笞打と同意義である)のほかに石五枚を抱かされたが、かれはやはり問に落ちなかった。第三回は九月十六日で、かれは笞打のほかに石六枚を抱かされた。第四回は同月十九日で、笞打ほかに石七枚を抱かされた。拷問の回数のすすむにしたがって、石の数がだんだんと殖えてくるのであった。
第五回は十月二十一日で、例のごとく拷問に取りかかろうとする時、かれは俄に「申上げます、申上げます」と叫んだ。そうして、自分の罪状を一切自白したので、拷問は中止された。彼はそのままで牢屋へ下げられた。これで彼の運命は一旦定まったのであるが、間もなく病気にかかったという牢屋医者からの届け出があったので、その仕置は来春まで延期されて、かれは暗い牢獄のなかで天保六年の春を迎え