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しもん

指紋

宮本 百合子

「展望」1951(昭和26)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 1,961 字 · 4 页

青空文庫

いずれにせよ、新しい人生のかどでに指紋とは、普通の生活をしているものの思いもつかないことだった。ぼんやりした気の毒さをもって、指紋をとられる花嫁花婿の写真を見た。

とんで十一月十三日の晩、わたしは、風邪ひきで床についているひとのわきで、東京新聞をひろげた。そして、そこに「全都民の指紋を登録」と三段ヌキ、トップに報道されている記事を見出した。福島のその村での結婚式の指紋とりは、偶然のことでなかった。

われわれ都民は、とられるものには、もう誰しもたんのうしきっている。とれるよりももっとどっさりの税をとられ、自殺する家族まで出るその金は公団その他にかすめとられ、もうとられるものはないと思っていたら、指紋があった。

新聞の記事は、まるで警官がもって歩く戸口調査簿のように、全都民の指紋は一般台帳にのせるのがあたりまえのようにかいている。指紋をとることが、都民の権利の主張であるとして語られている。しかし、指紋をとる、ということは、あたりまえの生活にあるべきことではない。刑事訴訟法二一八条二項に――容疑者の身柄を拘束した場合にのみ、強制的に指紋を採ることができる、とある。