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りゃくだつせられたるおとこ
掠奪せられたる男
豊島 与志雄
「新潮 第二十九卷第三號」新潮社、1918(大正7)年9月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 23,398 字 · 48 页
そして胸の底から訳も無い苛ら立たしさがこみ上げて来た。彼はまた貪るように、秀子の襟から覗き出した滑らかな白い肌を見つめた。その肌の円みを帯びた曲線を頭の中で辿ってゆくと、其処に、むりに絹糸で結えたような小さな乳首がぽつりとついている、弾力性のまん円い純白色を薄い玉虫色にぼかした乳房の小山が、二つ並んでいた、一方は他方より少し小さく。
その誘惑を感じ出すようになると、山田は以前よりも屡々秀子の許を訪れるようになった。二人は長い間秀子の室で時間をつぶしたり、外を歩き廻ったりした。その上伊藤はめったにやって来なかった。「虐待してやるから怒ってるのよ」とも秀子は云った。「大阪の方に旅してるのよ」とも云った。彼女は如何にも巧妙に機会を処置してるらしかった。然し山田はもうそんなことを問題にもしていなかった。「秀子に対して自分は純潔を保っている」という頭の隅の考えが、彼に一切のなりゆきに対して目をつぶらした。目をつぶると共に、頭の中が愚鈍になってゆくのを自ら意識しなくなってきた。彼は甘んじて秀子の玩弄に一身を投げ出した。
じりじりと暑気の増してくる日中など、山田は自分の室に寝転んで午睡を貪った。