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たんていしょうせつとおんがく

探偵小説と音楽

野村 胡堂

「音楽之友」1947(昭和22)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,397 字 · 7 页

青空文庫

のことを書いて見たいと思って居るが、どうした事かいまだに期が熟さない、芝居の千本桜の狐忠信の鼓は少し馬鹿馬鹿しいが、謡曲の「綾の鼓」はいかにも深酷で、これは少し舞台を考えるとそのまま小説になるだろう。谷崎潤一郎氏の「盲目物語」的な名人業でやってくれると申分ないが、それ程でなくとも、何んとか格好をつけてくれる人があるだろうと思って居る。

尤も、泉鏡花氏は好んで謡曲を題材にし、「綾の鼓」なども「風流線」の中に活かして使って居た筈である。

芸術的な作品の中には、ロマン・ローランの「ジャン・クリストフ」のように、音楽を題材とした不朽の名作があるのに、音楽を題材として、音楽的知識を必然的な鍵とした、一篇の傑作探偵小説も無いというのは、如何にも口惜しいことである。(尤も既にあるのかも知れないが、不学にして、私はその一つも挙げることが出来ない)

これは他の場合にも書いたことであるが、小説の中に扱われた音楽の知識が、どんなに間違って居るかを、刻明に集めた英文の著書があるということだが、不思議なことに日本の小説に現われた、音楽上の誤謬と出鱈目については、まだ曾て指摘した人は無いからだ。