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たんていしょうせつのなぞ

探偵小説の「謎」

江戸川 乱歩

1 奇矯な着想「オール読物」文藝春秋、1954(昭和29)年10月号<br>2 意外な犯人「週刊朝日 推理小説特集号」朝日新聞社、1955(昭和30)年10月10日<br>3 兇器としての氷「犯罪学雑誌」日本犯罪学会、1952(昭和27)年3月復刊号<br>4 異様な兇器「読切小説集」テラス社、1953(昭和28)年11月増刊<br>6 隠し方のトリック「探偵倶楽部」共栄社、1953(昭和28)年8月号<br>7 プロバビリティーの犯罪「犯罪学雑誌」日本犯罪学会、1954(昭和29)年2月号<br>8 顔のない死体「探偵倶楽部」共栄社、1952(昭和27)年5月号<br>9 変身願望「探偵倶楽部」共栄社、1953(昭和28)年2月特大号<br>10 異様な犯罪動機「宝石」岩谷書店、1950(昭和25)年8―11月号<br>11 探偵小説に現われた犯罪心理「文化人の科学」、1947(昭和22)年3月号<br>12 暗号記法の種類「宝石」、1953(昭和28)年9・10月号「類別トリック集成」の一部<br>13 魔術と探偵小説「新青年」、1946(昭和21)年10月号<br>14 明治の指紋小説「宝石」、1950(昭和25)年12月号<br>15 原始法医学書と探偵小説「自警」、1951(昭和26)年9月号<br>16 スリルの説「ぷろふいる」、1935(昭和10)年12月号<br>「類別トリック集成」目次「続幻影城」早川書房、1954(昭和29)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 119,820 字 · 235 页

青空文庫

もがく指だけが残って、それも見えなくなると、あとにはなにごともなかったようにじっとよどんでいる泥沼の表面、これらのすべての条件が、どんなお化けよりも、どんな拷問よりもいっそう深く鋭いスリルを生むのである。

また、たとえば磁石を失った曇天続きの砂漠旅行者の恐怖がある。見渡すかぎりの砂、空には鼠色の雲ばかり、太陽も月も星も方角の目印となるものは何もない。ただこれと思う方向へしゃにむに歩くばかりである。ところが、そうしているうちに彼はふとこんなことを考える。人間の左右の足は正確に同じ歩幅を踏むものかしら、いやいや、そんなことはあり得ない。すると、もし右足の歩幅が左足よりも一分でも広いとすれば、十歩で一寸、百歩で一尺、そして千歩万歩百万歩と歩くうちには、思いもおよばぬ大きな差異が生じて、つまり彼は砂漠の中を永久に円を描いてどうどうめぐりしている結果になりはしないか。事実そういうことが起る由であるが、現実よりもその着想だけで、旅人は底知れぬ恐怖におそわれ、立往生をしてしまうに違いない。またたとえば、早過ぎた埋葬のスリルがある。地底の棺桶の中でよみがえって、叫んでももがいても出るに出られぬ境地の恐ろしさ、これもまた現実よりも想像の中での方が(つまり文学的に)いっそう深刻なスリルの一種である。