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たんていしょうせつだんのしょけいこう

探偵小説壇の諸傾向

平林 初之輔

「新青年 第七巻第三号新春増刊号・探偵小説傑作集」1926(大正15)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,887 字 · 12 页

青空文庫

三

三

小酒井不木氏の作品は、私は、本誌〔『新青年』〕に出たものは全部よんでおるが、本誌以外に発表されたものは一つも読んでいない。しかしきくところによると、本誌に発表されたものは、氏の最も会心の作だということである。してみれば、本誌に出た作品だけをもとにして、探偵小説家としての氏を論ずるのは、氏の欠点を見逃すおそれはあっても、氏の長所を見逃すことにはなるまいと思う。

氏の作品は、ほとんど正確に、発表の月と比例して、あとから出たもの程よくなっているように私は思う。したがっていちばん私が感心してよんだのは、新年号に出た「恋愛曲線」である。人間をも含む動物の器官が、適当なコンディションさえ与えれば、身体じゅうの本来の位置から取りはずしても、機能を営みつづけてゆくということは、他の書物でも読んだことがある。

この実験生理学の真理の上に、氏は驚くべきロマンスを組みたてた。失恋した女の心臓へ失恋した男の血液を送って負と負との積は正になるという理屈から、この組み合わせの心臓の鼓膊が「恋愛曲線」を描くというもっともらしい結論をつくりあげ、それを、共通の「恋仇」の結婚の日の贈り物としようとする趣向である。