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たんていぶんだんちょうかん

探偵文壇鳥瞰

国枝 史郎

「新青年」1926(大正15)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,502 字 · 9 页

青空文庫

数多く作ったという点では、小酒井不木氏かも知れません。従って随分とムラがありました。「恋愛曲線」「肉腫」「印象」「安死術」「愚人の毒」は佳作であり、わけても「恋愛曲線」は、氏の専門の医学的智識と、一味甘い人情とが、渾然融和した傑作として、あらゆる探偵小説愛読者から、讃美された筈でございます。ところでちっとも不思議でない事には、所謂る実験室的作物の味が、多く加味されていればいる程、氏の作はいつも面白く、その味いの薄い時は、面白くない作になって居ります。然るに氏に対して一二の評者が、実験室を出ろ出ろと、忠告めいたことを云って居りますが、私としては反対に、氏よ、もっともっと実験室へ、おこもりなさいと云い度いのであります。甲賀三郎氏もよく働きました。「ニッケルの文鎮」をはじめとし「勝者敗者」「死の技巧」「従兄の死」「古名刺奇譚」というような作は、量に於ても質に於ても、立派な作でありました。併し所謂る惣太物のような、ユーモアを雑えた作品は、まだ試作中の為でもあろうが純化していないという点で、遺憾乍ら私には戴けませんでした。その作風が本格的であり、内容が複雑だという点は、既に以前から定評ある所、改めて云うにも及びますまい。