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せっぷん

接吻

江戸川 乱歩

「映画と探偵」映画と探偵社、1925(大正14)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,279 字 · 13 页

青空文庫

五

これから、みっしり、閑つぶしの御説法を始める積の課長さん、目をぱちくり。

さて、自席に戻ると、宗三何だか一生懸命書き出した。殊勝にも統計を訂正するのかと見ると決してそうでない。白紙一枚拡げると、筆太に先ず書いたのが、「辞職願」

五

面喰った課長の前に、小学生のお清書の様な大文字の辞表を投げつけて、ぐっと溜飲を下げた宗三は、まだ午前十一時というに、大手を振って帰って来た。

「お花、一寸ここへお出で」

例の長火鉢の前へ、ドッカリと坐ると、さてこれから一談判だ。昨夜のことがあるのでお花はもうビクビクもの。

「アラ、お帰りなさいまし。どっかお加減でも……」

「いや、身体は別状ない。僕は今日から役所を止す。その積りでいてくれ。それから、役所を止した訳はあの村山と衝突したからだ。だから、今日以後、村山家へ出入りすることはふっつり止めて貰い度い。これは断じて守ってくれないと困る」

「マア……」

といったが二の句がつげない。

「ア、それから」と何気なく、「お前は村山の写真を持っている筈だね。あれを一寸ここへ持ってお出で」

夫の剣幕がひどいので拒む訳にも行かぬ。お花は渋々例の写真を持って来る。