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ばんしゅうへいや
播州平野
宮本 百合子
「新日本文学」(第1~11節)、「潮流」(第16・17節)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 106,683 字 · 214 页
ひろ子は、名状出来ない衝動を感じてその記事をよんだ。ポツダム宣言によって、日本の治安維持法は近日中に撤廃され、治安維持法によって処罰されていた思想犯人はすべて釈放される、という報道なのであった。
「こりゃ、重吉さんも案外早うに帰られますで。――うれしやのう」
手をふきながら叔母も上機嫌で台所から出て来た。
「駅にも、はア今ごろは新聞がついちょろうから、おばはんも大抵よろこんででありましょうよ」
天真爛漫な叔母のよろこびに、ひろ子は笑顔で応えることも出来なかった。縫子が、びっくりした表情でその顔を見直したほど沈痛な口調で呟いた。
「もうすこし様子をみてからでないと、何にも云えないわね」
立ったまま、ひろ子はくい入るように紙面に目を据えた。
「ああいうところでは世間とまるでちがった風にものごとが運ばれるんだから。……重吉さんは治安維持法一つじゃないんだもの――もり沢山な目にあわされているんだから……」
治安維持法関係の思想犯は解放される、とはっきり語られている数行の文字は、ひろ子の心を捩りあげた。重吉の事件は、党組織の中に特高課が計画的に何年間にも亙って入れていたスパイの摘発に関していた。