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ばんしゅうへいや
播州平野
宮本 百合子
「新日本文学」(第1~11節)、「潮流」(第16・17節)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 106,683 字 · 214 页
ことをうれしく思った。
須波の駅は真暗闇で、たった一つ駅夫のもって歩くカンテラが、妙な高いところで小さい光の輪をつくっている。駅員が道の案内をするでもなければ、道しるべになる提灯がつけてあるでもない。雨の暗い駅にたった一つのそのにぶい光は乗客が影を重ねてこぼれ出た露天ホームまでは届かず、たちまち混乱がおこった。
「どっち行くんや!」
「見えへんじゃないか」
「こっちだ、こっちだ!」
「千代ちゃーん! 千代ちゃーん!」
あわてた女の叫び声が雨の暗闇をつんざいた。
ひろ子は、暗くて足もとが全く見えない中を滑りながら、人々が我がちに登ってゆく右手の崖の横木へ足をかけた。つれの男が、
「大丈夫ですか? わかりますか?」
ひろ子によりすがった。
「眼の見えんものは、こいうことになると実に困ります。――ここでいいんでしょうか」
法外に足かけの幅の遠い滑るだんだんをやっと崖上へ出た。そこは、人家の裏の細道らしく、小流れの音が片側にきこえた。雨にうたれながら荷物を背負った人々は、真暗闇の中に、びしゃびしゃ泥濘の音を響かせ、
「こっちか?」
「まっすぐだ!」
「てんで見えやしねえ」