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ばんしゅうへいや
播州平野
宮本 百合子
「新日本文学」(第1~11節)、「潮流」(第16・17節)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 106,683 字 · 214 页
「そうらしいわ。――アーチみたいなものがついていますよ」
と云った。
「じゃいよいよ来ました。ついそこです。こっちだったと思うが……」
うろ覚えの街角の一つを、さぐるように先立ってまがった。ガラスから灯のもれているところを見つけて、つれは、番地と姓名を云ってたずねた。
「ああ、そうでしたか。すんませんでした――こっちです」
さらに露路に入った。関西風な表格子のはまった人家が左右に建てこんでいる。急にバシャバシャと水がひろ子の女学生靴へ入った。その露路一帯、くるぶしほどの深さに浸水していた。水かさが一歩ごとにますようでこの先へ行くのは不安になったとき、つれの男は、一つの狭い入口の前で止った。
「多分ここでしょう……村川みきと書いてありませんか?」
「――標札あるのかしら。――暗くて見えませんよ」
「いや、ここでしょう」
確信ありげに声をかけて、土間に入ったつれの男を認めて、
「まあ! 支店長はん」
五十がらみの単衣をきた女が、一目で見とおせる次の間の茶箪笥の前から、とりいそいで立って来た。
「どうおしやして……今頃……でも、まあ御無事で……お珍しい。さアさアお上りやしておくれやす」