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ばんしゅうへいや
播州平野
宮本 百合子
「新日本文学」(第1~11節)、「潮流」(第16・17節)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 106,683 字 · 214 页
これも経験ですが」
それを云うのは、「教・総」ではなくて、荒削の相貌だが眼のなかには精神の動きが見えている白絹である。
ひろ子は、こまかい紺絣のもんぺ姿で、昔の女学生用編上靴をはいている。ひろ子が、のり巻の握飯をたべ終るころ、白絹と「教・総」とはくつろいで話しあっていた。
「満州では、何の御事業でした? 軍関係ですか」
「そうです。が、なあにほんのちょいとしたことでして――」
しかし共通な知り合いの軍人の噂が出ると、
「ふーむ。あれをお知りですか、そうでしたか」
おのずから、自分が満州でもっていた環境を「教・総」にさとらせてゆく。白絹はそういう会話のこつを心得ていた。
「教・総」は、やがて日本皇太子史論という小冊子をとりあげた。が、実際に読んでいる間はごく短かった。視線はじき頁から離れ、上向き加減にもたげられた二分刈頭、閉じられた瞼。その卵型茶色の小心律気な老年に近い顔には、能面のように凝固した表情があらわれた。唇は、その能面の上におかれた一本の短い色のさめた糸のきれはしのようになった。内心に一つの渦があって、外界の刺戟がゆるむと、忽ち全存在がその渦巻の中心へと吸いよせられる。