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ばんしゅうへいや
播州平野
宮本 百合子
「新日本文学」(第1~11節)、「潮流」(第16・17節)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 106,683 字 · 214 页
そういう気配が感じられた。そしてその能面の表情には、微塵も明日の閃きが感じられなかった。
名古屋を過ると、通路まで汗と塵にまみれた復員者とその荷物で溢れて来た。
はじめ元気に冗談も云っていた片脚の傷痍軍人は、列車が次第に目的地へ近づくにつれて何となし沈みがちに落付きを失って来た。京都に妻子が疎開していた。二年ぶりで帰る体を先ずそこに休めようという計画なのであった。
「電報がうまくついていればいいんだが――」
ひろ子をかえりみて、
「この節の電報は二日じゃあぶないでしょう」ときいた。
「よっぽど工合がよくないとね」
東北の町から、鮎沢のうちへ打った電報は、ひろ子が到着して、次の日まで逗留している間にさえ配達されなかった。
「弱ったな。荷物さえなけりゃ何とかなるんだが」
網棚の上の大きい義足の木箱を見上げた。
「お降りになるとき位、みんながお手つだいしますよ。駅のひとだって放っておかないんだし。――荷物は一時あずけにして、あとからとりに来ておもらいになれば」
「どうもすみません。じゃ、そうでもするか」
頭へ一寸手をやって、神経質に笑った。
「何しろ、はじめて社会へ出たもんで――これで病院にいた間は、同じような野郎ばっかりですから、何の脚一本ぐらいっていうわけで、物凄い景気なんですが……どうも」