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ばんしゅうへいや

播州平野

宮本 百合子

「新日本文学」(第1~11節)、「潮流」(第16・17節)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 106,683 字 · 214 页

青空文庫

夜が白みかけていた。雨降りで、濡れた灰色の外光の中に、つい近くを松林や草堤がぼんやり眠たげにすぎてゆく。

雨は長降りになりそうな降り工合である。

いくらか上り勾配にかかった様子で列車の速力が落ちた。そのうちスーと停ってしまった。

「妙なところで止るじゃないか」

白絹が不安そうに顔を動かして云った。

「広島まで、もう何分ぐらいですかな」

「まだよっぽどだアな。三本松にかかったばかりだから――一時間の余あらあ」

「早く出て来すぎたかな、こりゃあ」

がくん、と汽車は動き出した。徐行して、そろそろ普通の速力を出すかと思う時分、つよい排気の音をたてて又ズルズルそのまま止ってしまった。

「どうしたんだ、故障か。いい加減にしろよ」

白縮のシャツの上から腹巻をした、三十がらみの男が戦闘帽を後へずらしてかぶった頭をつき出して、線路の前方を眺めた。

「三本松じゃ、汽罐車がうしろへもう一台つくんだ。いつもそうだよ」

列車は、松の生えた低い堤の前にとまっていた。土堤の下草が繁っている。しめっぽい小雨の中へ、二三人男がとび下りて行って小便をした。

列車は、いつになっても動き出す様子がない。