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ばんしゅうへいや
播州平野
宮本 百合子
「新日本文学」(第1~11節)、「潮流」(第16・17節)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 106,683 字 · 214 页
「こんちは」
と呼んだ。
「まア!」
ひょこんと、まるでついそこにいたようにつや子が、前会ったときと大して変ってもいない顔を出した。
「いたの? きこえなかって?」
それには答えず、
「まア! ように!」
つや子は、紺ぽいスカートをひるがえして奥へかけこんだ。
「おばあちゃん! おばあちゃん! 東京から見えてですよ」
すぐ、
「まあ、まあ」
と、心からの声をあげながら登代が出て来た。
「今ついて?」
「三時間もおくれてしまったもんで……」
「えらいのに、ほんにまア。さあさあ、お上りませ」
ひろ子の一瞥には、母のやつれの方が著しく映った。活気横溢という日頃の表情は母の顔立ちから消えて、絣の着物の肩がすぼけて見えた。
「直次が。のうあんた、ほんにまア、何と云っていいやら」
「電報ついたでしょうか。わたし速達を頂いた翌日立って来たんだけれど……」
「まだ来ん、のう、つや子はん」
「来ちゃ居りません」
つや子の語調はいやにきっぱりしていて、何か、そういう電報は土台うたれもしないものだと云う風にきこえた。
ひろ子は、母やつや子と話しているうちに悲しみよりも深い寂しさを感じて来た。直次の災難が知らされてから、一ヵ月余も経ち、しかも行方も不明、生死も不明というままに、今日では母も妻であるつや子も、直次を生きていない者としてあきらめて来ている。