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ばんしゅうへいや

播州平野

宮本 百合子

「新日本文学」(第1~11節)、「潮流」(第16・17節)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 106,683 字 · 214 页

青空文庫

「本部でも、云うてでありました。鳥取県の三朝あたりまで分散治療に送ってあるよって、個人でさがしたら、一年かかってもよう分るまいて……」

豊田村から又二里近い山下の国民学校に移った本部の残務整理責任者は、つや子に向って、石田直次軽傷と記入されている一冊の帳簿を開いて見せた。又別のもう一冊を出してみせたら、それには、石田直次の項に、行方不明と記載されていたのであった。

ひろ子は、雲を掴むような話をきくにつけ、自分で一度豊田に行って来ようと決心していた。きのう着いて、つや子と母との話すのをきいているうちその心がきまった。

「じゃ、いっそのこと、こうしましょうか。私は、ともかく一遍どうしても豊田村へ行って調べたいから、明日、縫ちゃん行かない? そして、三次のこともよくきいて、もし手がかりがありそうなら、まわって来てしまうわ、いかが?」

「――えらい難儀じゃのう」

母が気づかわしそうにゆっくり呟いた。

「行ってもろうたら、それにこしたことはないけれど……ほん、東京であんな目えみて、ここへ来て、ほん……」

たよりないつや子と母との話だけを又伝えにして、直次さんについてはもう諦めていられますと、重吉に書く勇気はひろ子にないのであった。