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ばんしゅうへいや

播州平野

宮本 百合子

「新日本文学」(第1~11節)、「潮流」(第16・17節)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 106,683 字 · 214 页

青空文庫

それとも、つや子が自身で縫子の夢にきこえた三次というところを訪ねて行きたいこころもちだろうか。

「どうする? つや子さん。自分で行かなくても気がすむこと?」

「さア……」

「つや子さんの気がすむ方にしましょうよ、ね」

「……………」

「こんどは、御苦労でも、ひろ子はんに行んで貰おう、いくらかしゃんとした話もせまあじゃ、のう、つや子はん」

「はア、それがよろしうあります」

相談がきまった。登代が、ねそびれて泣く治郎をおんぶして、駅へ切符の工面に出かけた。

その母が帰り途にかかったと思われる頃、雨が落ちて来た。

「降って来たね、あした雨かしら、困ったこと」

縫子も立って来て、小さいパンツの干してある低い軒先から雨脚をみていたが、

「降りよりますで――これは……」

と、土地ものらしい確信で云った。

「お母はんに、傘もっていて上げなきゃ」

「そうだわ」

ひろ子が土間をさがしたが雨傘らしいものは見当らなかった。

「つや子さん、雨傘どこかしら」

姿の見えないつや子をさがして呼んでいるひまに、

「その辺に、何ぞありましょう」

縫子が、大きい膳棚の横から古い番傘を一本とり出し、それをもって迎えに出て行った。