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そうしゅ

操守

豊島 与志雄

「改造」1929(昭和4)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,418 字 · 20 页

青空文庫

岡野は、両手で頭をかかえた。

「僕、僕はほんとに誓うよ。……その証拠には、こんど、彼女を、澄代を引張ってきてみせる。」

「どこに。」

「ここに。」

「ばか、ばかな、あなたは、ばかねお坊ちゃん……。」

もう彼女は、酔っていた。泣いてるのか笑ってるのか、自分でも分らなかった。

三

元来の呑気なおおまかな性質が、却って心棒となって、それに達者な八重次の助けもあり、時間も短かかったので、吉乃はわりに楽だった。何よりも「青柳」の家でないのがよかった。

それでも、調子は初めから狂っていた。

眼窩のくぼみが感ぜらるる、大きな、ひどく敏活な眼付。それから喉を使わないなめらかな声音で、「こんばんは、」と低く、次に調子よく、「前から、あなたのことはきいていて、逢いたいと思っていました。」――その二つが、ずっしりと胸にきて、吉乃は黙ってお辞儀をした。そしてさすがにぎごちなく、それを、そのまま押し通して落付いてしまった。

色古浜の着物、綴錦の帯、目立たない派手好みに、帯留の孔雀石の青緑色が、しっくり付いていた。三十五六の、きゃしゃな美貌で、見ようによって、ひどく色っぽくも皮肉にもなる眼付――それに一抹の疲れが見えるのは、眼窩のくぼみのせいらしい。