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ぎたい

擬体

豊島 与志雄

「新潮」1952(昭和27)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,945 字 · 25 页

青空文庫

やがて半焼のビルの空室をかり受け、石村商事を開いて、軍関係やその他の闇物資で巨利を得た。彼のところには、旧軍人や旧軍属が集まってきた。青木もその一人だった。終戦直後、北京から朝鮮を迂回して、命がけの冒険旅行をやったのである。闇物資の仕事が少くなって、石村商事は石村証券と看板を変え、人員も次第に少くなり、そして今日に至ってるのであるが、石村は心ひそかに期するところがあって、新たな活動を始めてるようだった。

「青木君。」

石村は突然呼びかけて、青木の顔をじっと見た。

「率直に言おう。君はあの今西巻子から、何等かの情報を掴むつもりだったろうね。」

青木にとっては思いがけない言葉だった。そんな意図は全然なかったのである。彼は呟いた。

「それはちと、明察すぎますね。」

「白ばくれなくてもいいよ。或は僕の思い違いかも知れないが、然し、あの時の君の態度は、どうもそうとしか受取れなかったからね。」

「へえー、どんな態度ですか。」

「中国で目下進捗してる淮河の治水工事などを持出して、さんざん今西の機嫌を取ったじゃないか。」

「淮河の治水工事ですって……。」

「そうだ。あれこそ本当の民衆のための建設工事だとかなんとか吹聴して、今西の気に入ろうと努めたろう。