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はせくらじけん
支倉事件
甲賀 三郎
「読売新聞」1927(昭和2)年1月15日~6月26日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 204,697 字 · 406 页
石子刑事が見たら感慨無量であろう。相対した男女の二人は支倉の妻の静子と写真師浅田である。
庭には午後の陽が暖かそうに一杯当っていた。
「之でこの家も高輪の借家の方もみんなあなたのものになった訳です」
浅田は生際の薄くなった額を撫で上げながら、気味の悪い笑いを洩らした。
「ほんとにお手数をかけました」
静子は格別嬉しそうにせず、
「何ともお礼の申上げようがありません」
浅田は要件が済んで終っても中々尻を上げようとせず、又新しい敷島に火を点けて、四辺をジロ/\睨み廻していた。
静子は手持無沙汰で、一刻も早く彼の帰って呉れる事を念じていた。
「お淋しいでしょう」
暫くすると浅田が云った。
「はい」
「お子供さんの御病気はいかゞですか」
「有難うございます。病気はもう夙から好いんでございますけれども――」
静子は後を濁らした。支倉との間に出来た太市という今年六つになる男の子は、少し虚弱な質で、冬になると直ぐ風邪を引いて熱を出したりするので、一月の初めから温かい海岸にいる親切な信者の所へ預けてあった。一月末には迎いに行く事になっていたが、丁度刑事に踏み込まれたりして、迎いに行くのが延々になり、子供にこんな有様を見せたりするのは面白くなかったし、幸い子供も帰りたがらないので、その儘預け切りになっているのだった。