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はせくらじけん

支倉事件

甲賀 三郎

「読売新聞」1927(昭和2)年1月15日~6月26日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 204,697 字 · 406 页

青空文庫

「支倉さんも坊ちゃんに会いたがっていましたよ」

「――――」

静子は黙ってうつむいた。涙がにじみ出て来た。子供に会いたいのは彼女とても同じ事、一時も早く親子三人団欒して、昔の平和な生活に帰りたかった。もしや子供が今頃父母を慕って泣いていはせぬかと思うと、落着いた気はなかった。一時の心得違いから家を外に隠れ廻っている夫が恨めしかった。彼女はどうして夫が逃げ隠れをして、自分に家作を譲ったりする事を急ぐのか、よく分らないのだった。

静子は顔を上げた。睫にキラ/\と小さい露が宿っていた。

「何でございましょうか、夫は之で警察へ出頭いたしますでしょうか」

「さあ、分りませんね」

浅田は意地の悪い笑を浮べながら、

「まあ自首なんかなさるまいよ。誰でも刑務所へ這入るなどは感心しませんからね」

「あの」

静子は顔色を変えた。

「じゃ、矢張り罪になるような事をしたんでございますか」

「さあ」

浅田は困ったと云う表情をしながら、

「まあそうでしょうね」

「どんな事をしたんでございましょう」

「奥さんご存じないのですか」

「聖書の事でございましたら」

静子は云い悪くそうに、

「あれは決して盗んだのではない。