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はせくらじけん
支倉事件
甲賀 三郎
「読売新聞」1927(昭和2)年1月15日~6月26日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 204,697 字 · 406 页
「実は牛込神楽坂署の署長が是非あなたにお会いしてお聞きしたい事がありますので、私に署までお伴れするようにと云いつかったのです」
小兵ながらも精悍の気の全身に漲っている石子刑事は色白の顔に稍赤味を帯びさせて、丸い眼を隼のように輝かせながら、否か応か、大きな口をへの字に結んでいる支倉の顔をきっと仰ぎ見た。
鳥渡狼狽の色を見せた支倉は忽ち元の冷静な態度に帰って、梃でも動かぬと云う風だった。
「警察へ行くような覚えは更にないが、何か聞きたい事があればこちらへ来られてはどうですか」
彼の声は身体に相応しい太い濁声で、ひどい奥州訛りのあるのが、一層彼をいかつく見せた。
「ご尤もです」
石子はうなずいて見せた。
「然し署長は何分多忙な身体ですから、お出でが願えると好都合なのですが」
「もし嫌だと申したらどうするのですか」
「それは大変困るのです。是非どうか――」
「一体どう云う用事なのですか」
「それは私に分りませんのです」
「ふうん」
支倉は暫く睨むように刑事を見ていたが、
「お気の毒じゃがお断りしましょう。いやしくも聖職に奉じているものが、用事の内容が分らないで、軽々しく警察に行く事は出来ません」