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はせくらじけん

支倉事件

甲賀 三郎

「読売新聞」1927(昭和2)年1月15日~6月26日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 204,697 字 · 406 页

青空文庫

「どうも年の点でね」

「死後六ヵ月を経過した溺死体の年なんてものは的確に分るものじゃないさ」

今まで黙々として聞いていた庄司署長は初めて口を出した。

「で、何かい、その死体は他殺ちゅう事になっとるのか、それとも自殺となっとるのかね」

「自殺と云う事になっているのです」

石子は署長の質問に答えた。

「然し、司法検視をやっていないのですからね。警察医が形式的に見たのに過ぎないのです」

「当時の井戸の状態はどうなっとったのかね、過失で落ちるかも知れんと云う状態になっとったかね」

「それがですね」

石子は署長のグン/\追究するような質問に少したじろぎながら、

「何分三年も前の事で、その後井戸は埋めて終いましたし、どうもよく分らないのです。然し調べた所に依りますと、確に井戸側はあったようで、過失で陥込むような事はなかろうと思われます」

「ふん」

署長は忙しく瞬きながら、

「それで何だろう、その娘が覚悟の自殺をしたかも知れんと云う事実はないのだろう。遺書なんか少しもなかったと云うじゃないか」

「遣書なんか一通もないのです。それに年が僅に十五か十六ですから、聞けば少しぼんやりした方で、クヨ/\物を考える質ではなかったそうですから、自殺と云う事は信ぜられませんね」