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はせくらじけん

支倉事件

甲賀 三郎

「読売新聞」1927(昭和2)年1月15日~6月26日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 204,697 字 · 406 页

青空文庫

「君、そう興奮してはいかん。もう少し落着いて委しく話して見給え」

「はい」

石子は余りに狼狽えた自分の姿を少し恥じながら、

「先刻大崎の墓地から白骨になった死体を発掘して、鑑識課へ持って行きました事は主任から御聞きの事と存じます。私は一人残りまして結果を待って居りました。恰度居合せました医者は小首を捻りながら、

『どうも可笑しいぞ。之は女の死体じゃない』

と申して居りましたので、少し心配して居りますと、所へ外の用件で見えた帝大の大井博士が御出になりまして、じっと暫く見て居られましたが、

『君、之は男の骨だよ。而も老人だ』

と云われたのです。外の人と違って、博士の鑑定せられたのですから絶望です」

「うん、そうか」

署長はうなずきながら、

「つまり掘った死体が間違っていたのだね。問題の池田ヶ原の井戸から上った死体が男だったと云う訳ではないだろう」

「はい」

「そうすればその井戸から上った女の死体は墓地のどこかに埋まっている訳じゃないか」

「はい。そうです。高輪署の記録が違っていなければ、あの墓地のどこかに埋まっている筈です」

「高輪署の記録が違っている筈がないじゃないか。現に君を案内した人夫も三年前にそういう死体を扱った事を認めたじゃないか」