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はせくらじけん

支倉事件

甲賀 三郎

「読売新聞」1927(昭和2)年1月15日~6月26日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 204,697 字 · 406 页

青空文庫

いかに大胆な彼でも白昼堂々と帰宅する事はあるまい。必ず深夜人知れず帰宅するに違いない。咄嗟の際だったから、彼に充分の用意がないから、今晩にも帰って来るかも知れぬ。石子、渡辺の両刑事は其夜人の寝静まった頃から支倉の家を見張る事にした。

寒風に晒されながら冬の夜更けを、人知れず暗闇に佇んでいるのは決して楽な仕事ではなかった。両刑事は息も凍るような寒さに、互に励まし合いながら、徹宵一睡もしないで、猫の子一匹も見逃すまいと、支倉の家を睨んでいた。

其夜は何事もなく明けた。次の夜も其次の夜も三晩と云うものは更に家を出入するものがなかった。

「ねえ、石子君、つく/″\嫌になるね」

三晩目に渡辺刑事が述懐した。

「何、三晩やそこいらの徹夜位はなんでもないさ。僕は苦労を云うのじゃない。三晩も寝ないで他人の家を恰で犬のように覗っていると云う事が果して意義のある事だろうか。探偵なんて商売はつく/″\嫌になって終う」

「馬鹿な事を云っちゃいけないぜ」

凍えた両手を一生懸命に擦り合せながら石子刑事が答えた。

「僕達は何も私利私慾の為にやっているのではないぜ。公益の為にやっているのだ。