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はせくらじけん

支倉事件

甲賀 三郎

「読売新聞」1927(昭和2)年1月15日~6月26日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 204,697 字 · 406 页

青空文庫

「鳥渡ものをお尋ね申しますだが」

と、云ったが、直ぐ低声になって、

「どうした、来たのかい」

と口早に聞いた。

「いや、未だ」

石子も低声で鋭く答えた。

「どうして外へ行くのだ」

彼は重ねて聞いた。

この田舎爺然としている男は田沼と云う刑事で、柔道三段と云う署内切っての強の者で、今日は特に選抜されて出て来たので、スワと云えば直ぐ飛び出して腕力を奮おうと云うのである。

「実はね」

石子は答えた。

「今ふと思いついたのだが、支倉の奴はとても喰えない奴だからこゝの境内までは来るまいかと思われるのだ、奴はきっと八幡様の手前の方にそっと見張っていて、浅田の姿を見つけようとするだろうと思うのだ。それだから、こっちはその裏を行って、電車通りに待構えていて、きゃつが電車から降りようと車掌台に姿を現わした時に逸早く見つけようと云うのだよ」

「成程、それは有効な方法だ」

田沼はうなずいた。

「けれども第一きっと電車で来るとは極ってはいないし、もし向うに先に感づかれると困るよ」

「そこはどうせ運次第だよ。第一そんな事を云えばきゃつが今日こゝへ来るかどうかさえ疑わしいんだからね。僕だって一生懸命だから万に一つの仕損じはないと思うけれども、もし取逃がしたとしても十人もの人間で網を張っているのだから大丈夫さ。