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はせくらじけん
支倉事件
甲賀 三郎
「読売新聞」1927(昭和2)年1月15日~6月26日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 204,697 字 · 406 页
写るのだった。
石子はふと我に返って、あわてゝ軌道の方を見た。恰度一台の電車が疾駆して来る所だった。暫く杜切れていたので車掌台には外へハミ出す程客が乗っていた。やがてけたゝましい音を立てゝ、電車は石子の前を通り過ぎたがその時に一人の面構えの獰猛な男が電車の戸口から一杯人の詰っている車掌台へ出ようとあせっている姿が眼についた。あゝ、それはこの一月間夢にだに忘れないで、尋ね廻っている仇敵支倉の姿だった!
石子は思わず、
「しめたっ!」
と叫んだ。
電車は石子から二十間程離れた停留場に停った。乗客は雪崩のように争って降りた。その中に揉み込まれて支倉の油断なく眼を光らしながら降りる姿がハッキリ見えた。彼は黒っぽい二重廻しを着て足駄を穿いていた。
「足駄などを穿いて悠々としている所を見ると、俺達の計画は一向知らないと見えるぞ」
石子は彼の姿を見失わないように、そっと物蔭から出て跡をつけながら、そう呟いた。彼の胸はもう嬉しさでワク/\していたが、勉めて平静を装って気づかれないようにだん/\彼に迫って行った。
支倉はのろ/\と八幡社の鳥居の方へ進んで行った。そこには十人ばかりの刑事が腕を撫で待ち構えているのだ。