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はせくらじけん
支倉事件
甲賀 三郎
「読売新聞」1927(昭和2)年1月15日~6月26日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 204,697 字 · 406 页
尚一筆書き加え候が、多分は聖書の件と存じ候が、あれは尾島書記より貰い受けしものにして、決して盗み出せしものに非ず、右御誤解なきよう願上候。呉々も小生居所についての御詮議は御無用に願度、卿等の如き弱輩の徒には到底尋ね出ださる余に非ず、必ず当方より名乗って出ずべきにより、無用の骨折はお止めあるよう忠告仕候。
石子刑事は歯噛みをして口惜しがった。
手紙を見せられた渡辺刑事も激怒した。
「馬鹿にしていやがる」
稍あって石子は腹立たしそうに云った。
「聖書の事などは云いやしないのだろう」
渡辺刑事が聞いた。
「無論云いやしない」
石子は余憤の未だ静まらない形で、荒々しく答えた。
「ではきゃつ脛に持つ疵で早くも悟ったのだね。それにしても聞きもしないのにこんな事を書くのは白状したようなものだ」
渡辺は鳥渡息をついで、
「尾島書記と云うのに会ったかい」
「会ったさ、然し貰ったと云うのは嘘だよ。会社の方で公の問題にしたくないと云う考えがあるので、それにつけ込んでこんな事を云っているのだ」
石子は一気にそう云ったが、やがて調子を変えて、
「そんな問題は後廻しだ。一刻も早くきゃつを捕えなければならん」