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はせくらじけん
支倉事件
甲賀 三郎
「読売新聞」1927(昭和2)年1月15日~6月26日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 204,697 字 · 406 页
司法主任はジッと彼を睨みつけながら厳かに云った。
「支倉喜平」
彼は臆する所なく濁声で答えた。
「年齢は」
「三十八歳」
「住所は」
「芝白金三光町××番地」
「職業は」
「伝道師です」
「うむ」
司法主任は大きくうなずいて、下腹に力を入れながら、
「君は当署から使が行って同行を求めた時に、何故偽って逃亡したのか」
「逃亡した訳じゃない」
支倉は主任の言葉を跳ね返すように、
「警察などと云う所は詰らぬ事で人を呼び出して、三日も四日も勝手に留て置くものだ。僕はそんな侮辱的な事をされるのが心外だったから出頭しなかったまでだ」
「うむ」
主任は彼の不敵な答弁に些か感情を損ねたらしく、いら/\する様子が見えた。
「お前はどう云う訳で呼び出されるのか知っていたか」
「多分聖書の事だと思う」
彼は太い眉を上げながら大音に答えた。
「聖書の事なら決して君達に手数はかけない、あれは譲り受けたのだから、どこへ売り払おうと僕の勝手だ」
「それなら尚の事逃げ廻るには及ばんじゃないか。何か外に後暗い事があるに相違ない」
「そんな事は絶対にない」
「お前は逃亡中に度々署や刑事に宛て愚弄を書き連ねた手紙を寄越したのはどう云う訳か」