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はせくらじけん
支倉事件
甲賀 三郎
「読売新聞」1927(昭和2)年1月15日~6月26日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 204,697 字 · 406 页
主任は少し調子を変えて外の事を聞き出した。
「あれは訪ねて来た刑事の態度が余り不遜で、非常に侮辱的に考えたから、その報復にあゝ云う手紙を書いたのだ」
「そうか、そういう訳だったのか」
主任は軽くうなずいたが、急に調子を変えて、
「おい、こうなったらもう潔く何もかも云って終ったらどうだ。当署ではちゃんと調べがついているのだぞ」
「それは何の事だね。僕には少しも分らん」
支倉は嘯いた。
「そうか、では問うが、お前は今から三年前に小林貞と云う女を女中に置いたのを忘れやしまい」
「小林貞?」
支倉の鋭い眼がギロリと動いた。
「そんな女中がいたと覚えている」
「その女にお前は暴行を加えた覚えがあるか」
「そんな覚えはない」
彼は言下に否定した。
「白々しい事を云ってはいけない」
主任は叱りつけるように云った。
「本人の叔父の小林定次郎からちゃんと暴行の告訴が出ているぞ」
「そんな筈はない」
支倉は少し狼狽し出した。
「その話はちゃんと片がついている」
「片がついているとはどう云う事か」
「当時神戸という知合の牧師が仲介にたって、相当の事をして以後問題の起らぬ筈になっている」
「そうか、それでは暴行の事実を認めるのだね」