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はせくらじけん

支倉事件

甲賀 三郎

「読売新聞」1927(昭和2)年1月15日~6月26日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 204,697 字 · 406 页

青空文庫

「いや」

根岸は凹んだ眼を考え深そうにギロリと光らしながら、

「喚んでも来るかどうか分りませんよ。石子君にでも行って貰うんですなあ」

「行きましょう」

石子が口を出した。

「では石子君は神戸牧師の所へ行って呉れ給え。それから根岸君と渡辺君とは午後僕の調べた後を、もう一度厳重にやって呉れ給え」

「承知しました」

三刑事は頭を下げた。

「どれ昼飯にでもしようか」

大島主任は機嫌よく立上ろうとした。

所へ、あわたゞしく一人の刑事が走って来た。

「主任、支倉がどうしたのか苦悶を始めました。監房をのたうち廻っています」

「えっ」

一同は驚いて顔を見合せたが、主任は口早に石子に向って云った。

「君、あいつの懐中物はすっかり取り上げたんだろうね」

「えゝ」

石子はうなずいた。

「毒薬を持っていたとか云うが――」

「毒薬は無論第一に取上げました」

「では、急病でも起したと見える」

主任は飛んで来た刑事を振り向いて、

「直ぐ医者を呼んで呉れ給え」

「承知しました」

刑事が出て行くと、主任はすっくと立上った。

「おい、見に行こう」

一同がうち連れて独房の前に立つと、薄暗い不潔な箱の中で、支倉が顔蒼ざめて手足をバタバタさせながら呻吟していた。