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はせくらじけん

支倉事件

甲賀 三郎

「読売新聞」1927(昭和2)年1月15日~6月26日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 204,697 字 · 406 页

青空文庫

根岸刑事は出て行こうとした渡辺を呼び留めた。

「いくら何でも今調べるのは可哀想だ。それに今聞いたって云う気遣いはないよ。今晩一晩位は独房に置いとくのが好いのだ。どんな強情な奴でも、一人置かれるといろ/\と考えて心細くなるから、素直に云うものだよ」

「それは対手に依るよ」

渡辺は渋々席につきながら、

「あいつにはそんな生優しい事では行かないよ」

「まあ、行くか行かぬかそっとして置くさ。それよりね、主任」

根岸は大島の方を見て、

「女房を一度喚んで調べましょうや、何か知っているかも知れませんぜ」

「うむ、そうだ。そうしよう」

主任はうなずいた。

支倉の妻の静子は根岸刑事の献策によって警察に出頭を命ぜられて、取調を受ける事になった。

それより前に石子刑事は取敢ず芝今里町の神戸牧師を訪ねたのだった。

神戸牧師と云うのは当時三十五、六、漸く円熟境に這入ろうとする年配で、外国仕込の瀟洒たる宗教家だった。支倉の妻が日曜学校の教師などをして、同派に属している関係から知合となり、妻の縁で支倉も続いて出入するようになり、小林貞を支倉の家に預けるようにしたのも、彼が口を利いたのだった。