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はせくらじけん
支倉事件
甲賀 三郎
「読売新聞」1927(昭和2)年1月15日~6月26日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 204,697 字 · 406 页
これが仮りにも宗教界に身を置くものゝ所業だったのであろうか。
「何とも申上げようがありません。お目にかゝってこんな恥かしい事をお話しなければならない私をお憐み下さい」
「よく告白しました。あなたはきっと救われると思います」
「有難うございます。先生、私の浅間しい所業は罰せられずには置かなかったのです。女房にも女の親にも知られて終いました。女の叔父と云うのが手のつけられない無頼漢なのです。私は絶えず脅迫されるのです」
神戸氏は鳥渡誑されたような気がした。彼は支倉のしょげ切った姿から眼を離して、庭前をチラリと見やった。夕闇に丁字の花が白く浮んでいた。
支倉はさっきから真摯な態度で彼の罪を告白していた、と神戸氏は思っていたが、今聞くと彼は女中の伯父から脅迫される事を恐れて、自分の所へ縋りに来たとも思える。彼の流していたのは必ずしも悔悟の涙でなくて、救いを求めに来たのは彼の霊でなくて、肉体であったかも知れない。
「先生」
支倉は黙り込んだ牧師を不安そうに見上げながら、
「私は心から悔悟しているのです。どうか救って下さい」
支倉の悔悟は偽りか。この瞬間に於ける彼の至情は、よしそれが神の罰を恐れる為でなく、無頼漢の脅迫を恐れる為であったとしても、正に悔悟と認めて好い。