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はせくらじけん
支倉事件
甲賀 三郎
「読売新聞」1927(昭和2)年1月15日~6月26日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 204,697 字 · 406 页
「支倉、この髑髏をよく見ろ」
石子は支倉の眼の前に気味の悪い頭蓋骨をつき出した。
「これは何だ」
支倉は叫んだ。
「分らないか。この髑髏の歯を見てみろ。之はお前に殺された小林貞の骸骨だ」
「え、え」
支倉は恐怖の色を現わして顔を背向けようとした。
「おい、何もそう恐がる事はない」
渡辺刑事は石子から髑髏を受取りながら、
「お前の可愛がった女の骨じゃないか」
未だ深夜と云う程ではない。けれどもこゝは聞くだに恐ろしい刑事部屋で、あたりは寂としている。それに荒くれた刑事達に取巻かれて、髑髏を眼の前につきつけられたのであるから、流石の支倉もギョッとしたに相違ない。もし彼が小林貞を殺していたとすると、いかに恐怖を感じたであろうか。想像するに難くない。
然し、強胆な支倉はチラと取乱した姿を見せただけで、忽ち元の憎々しい人を人とも思わぬ態度に帰った。
「そんなものは俺は知らない。貞を殺したなどと飛んでもない事を云うな」
「貞の屍体は大崎の古井戸から出て来たのだがね」
根岸は静かに云った。
「君はその時に見に行ったそうだが、どんな気持がしたね」
「大崎の古井戸から女の屍体が上がった事があった。