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はせくらじけん
支倉事件
甲賀 三郎
「読売新聞」1927(昭和2)年1月15日~6月26日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 204,697 字 · 406 页
然し更にその後呪いの鬼になった彼が、此署長の訊問中の不用意な片言隻語を捕えて、いかにそれを利用したか。読者諸君は一驚を喫せられる時があるであろう。
「お話はよく分りました」
支倉はぬっと頭を上げた。
「よく考えて見ますから今日は寝さして下さい」
「うむ」
寝さして呉れと云う支倉の言葉に、署長は暫く考えていたが、
「よし、今日の取調は之で終ろう。明日又訊ねるから考えて置くが好い」
午後から引続いた長い訊問は之で終った。
支倉は淋しい独房で破れ勝ちな夢を結ぶ事になった。
翌朝も快い春めいた空だった。人々は陽気に笑いさゞめきながら、郊外に残んの梅花や、未だ蕾の堅い桜などを訪ねるのだった。忙しそうに歩き廻る商店街の人達さえ、どことなくゆったりとした気分に充ちていた。
独房に閉じ込められた支倉喜平には、然し春の訪れはなかった。彼を自白せしめようと只管努力している警吏達にも、春を味わうような余裕はなかった。真四角な灰色の警察署の建築の中はあわただしいものではある。
この朝は神楽坂署の内部は、何となく憂色に閉ざされていた。
司法主任の大島警部補が急に病が革まったのである。