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はせくらじけん
支倉事件
甲賀 三郎
「読売新聞」1927(昭和2)年1月15日~6月26日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 204,697 字 · 406 页
こうして置けば放火と云う事が判明しても、自己の嫌疑を隣人の方へ向ける事が出来る。何と恐るべき計画ではないか。迷惑したのは谷田である。
失火と放火との区別は場合によっては、余程経験を積んだ警吏にも容易に分らないそうである。又放火と判明してもその犯人を見出す事も中々困難なものとせられている。警察署が密告状によって先ず谷田に嫌疑を向けたのは止むを得ない事であろう。
谷田が恰度嫌疑を受け易い位置にいたのか、それとも彼の答弁が場所柄に馴れない為に、益々嫌疑を深めたのか、彼は中々釈放せられなかった。凡そ一週間と云うものは留置せられたのだった。
一週間目に支倉は殊勝な顔をして警察に出頭し、谷田の為に嘆願をしたのだった。之も亦極めて巧妙な方法で、彼は充分彼の地位を利用したのである。警察では彼を牧師と信じて、全然嫌疑の外に置いている。そこへいかにも同情したような顔つきで、谷田と云う人は決してそう云う事をする人ではないと熱心に弁護したのであるから、流石の警察もすっかり一杯嵌められて終った。
第三回の放火は前にも増して、巧妙で且つ大胆不敵に行っている。これは品川署の管内であったが、彼は俗に立ン坊と称する浮浪人を一人傭い入れて、彼の家に火をつけさした。