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はせくらじけん

支倉事件

甲賀 三郎

「読売新聞」1927(昭和2)年1月15日~6月26日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 204,697 字 · 406 页

青空文庫

彼が妻子を思う念の切なのを利用して彼を白状させようとしたのが、神楽坂署員の云わば気転で、同時に深く支倉から恨まれた点であろう。

妻子の身の上を思う余り、虚偽の自白をする事は往々ある事であるが、それは多くの場合妻子が罪を犯している場合で、それを庇うべく自ら罪人となり名乗るのであろう。支倉の場合には妻子は何等罪を犯していないのだから、少しも庇う必要はない。警察で少し位苛酷な調べ方をせられたからと云って、又は単に財産を譲渡して後顧の憂いなきようにする為に、仮にも犯した覚えなき殺人の罪を自白するとは受取れぬ。

署員が支倉の妻子を思う情を旨く利用して彼に自白を迫ったのだと思う。それは上願書の続きを見るとよく分る。

支倉の上願書の次ぎにはこう書いてある。

「A、根岸刑事より小生に依頼の件、

お前は小林貞を殺したと云うて立ってくれ、背負ってくれ、お前が背負ってくれなければ私は署長さんへ対して顔向けが出来ん。どうか背負って行ってくれ、私を助けたと思ってたのむ/\。お前も男だろう。背負って行ってくれたなら俺も男だ。お前が今所有している家屋は聖書会社より差押えられないようにしてやる。