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はせくらじけん

支倉事件

甲賀 三郎

「読売新聞」1927(昭和2)年1月15日~6月26日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 204,697 字 · 406 页

青空文庫

神楽坂署で立派に白状した時の様子は嘘らしく思えなかったが、今の夫も嘘を云っているとは思えぬ。どうかして有力な弁護士を頼んで、夫をあの苦しみから救い出したい。

静子の心は千々に乱れたが、昼よりの疲れに、今は身心ともに困憊して、そのまゝ子供の枕許へウト/\と寝崩れて終った。

ふと、冷たい風が身に触れたので眼を醒ますと、何刻経ったか、夜は深々と更けたようで、雨戸の一枚明け放しになった所から外を見ると、いつの間にか空は真黒に掻き曇っていた。静子はあわてゝ、起き上って雨戸を閉めようとすると庭の奥に朦朧と人影が現われた。

庭先に怪しい人影を見た静子は、

「あっ」

と叫んでそのまゝ立竦んで終った。

人影はふら/\と彼女に近づいて来た。

「まあ、あなたは」

静子は再び驚きの声を上げた。

怪しい人影と思ったのは夫の喜平だった。彼は黙ってのそ/\と家の中へ這入った。平常通りの姿で、割に元気が好かった。静子は監獄にいる筈の夫がどうして今頃我家へ帰って来たのだろうと鳥渡不審の眉をひそめたが、別に深く怪しみもせず、彼を迎え入れた。

「よく帰って来られましたね」

「うん、酷い目にあったよ」