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はせくらじけん

支倉事件

甲賀 三郎

「読売新聞」1927(昭和2)年1月15日~6月26日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 204,697 字 · 406 页

青空文庫

兎に角関係記録を隅から隅まで読んで、よく腹の中に入れて置く事については定評のある人で、この点は流行弁護士が記録の下読をさせて要領だけを聞いたり、汽車の中で匆々の間に記録を走り読みしたりするのと選を異にしているようだ。支倉がそれと知って能勢氏に弁護を希望したかどうか分らぬが、本事件に彼が這入ったと云う事は愈※(二の字点、1-2-22)本事件を複雑にし有名にしたので、他日支倉が寝返りを打って、その為事件がかく紛糾すると予期していなかった庄司署長や神楽坂署員にとっては厄介千万な事だった。

静子は一向弁護士の事情などは知らないし、差当り依頼するとすればやはり浅田の助力を受けねばならないので、心が進まぬながらも頭を下げるよりなかった。

「何分宜しくお願いいたします」

「宜しゅうございます。私が引受けますよ」

浅田は頼もしげに引受けた。

「あの、それで支倉は助かりますでしょうか」

静子はオズ/\と聞いた。

「さあ」

浅田は小首を傾けながら、

「どうですか私には分りません。よく弁護士の意見を聞いて見ましょう」

夫がこのまゝ有罪と決したら、静子はどうしたら好いか。一銭の貯えもない上に子供を抱えて、今は日曜学校の教師を務める事も出来ず、路頭に迷う外はない。