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はせくらじけん

支倉事件

甲賀 三郎

「読売新聞」1927(昭和2)年1月15日~6月26日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 204,697 字 · 406 页

青空文庫

悲しい自分の運命を思うと、静子は又新たな涙に誘われてさしうつむいた。

「奥さん、気を落してはいけませんぜ」

浅田は心配そうに静子ににじり寄った。

夜は大分更けた。宵の口は静かだったが、いつの程にか風が出たと見え、庭の立木がザワ/\とざわついていた。

公判

大正六年九月二十五日、東京地方裁判所刑事部で、支倉喜平の第一回公判が開かれた。

裁判長は少壮判事宮木鐘太郎氏で、立会検事は小塚氏、弁護人は能勢氏外三名、私訴を提起した二会社の代理人等、所定の席に居流れた。支倉喜平は見るから不敵の面魂で、臆する色もなく被告席に控えていた。当時彼は三十六歳だった。

裁判長は静かに訊問を始め、法通りに身分職業姓名等を聞き質して、犯罪事実の審理に這入った。

喜平は既に覚悟を定めたものゝ如く澱みなく裁判長の質問に答えて、片端から犯罪事実を否定して行った。警察署での自白は尽く虚偽なる旨恐るゝ所なく申述べた。裁判長はうなずきながら微に入り細を穿って訊問を試み、一先ず閉廷を宣した。それより前能勢弁護人は証拠申請準備の為続行ありたき旨を申請したのだった。

続行公判は十月四日に開かれた。