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はせくらじけん

支倉事件

甲賀 三郎

「読売新聞」1927(昭和2)年1月15日~6月26日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 204,697 字 · 406 页

青空文庫

「それはどう云う告白だったか」

「支倉は彼の二階で妻の不在中、貞に按摩をさせているうちに情慾を起し、遂に貞の意に反して犯したる旨申しました。そうして小林に対して謝罪をする事を承知したのです」

神戸牧師は額に冷たい汗を滲ませて、苦悶の表情を浮べながらこう答えたが、又元のようにむっつり黙って終った。

神戸牧師は支倉が自分を信じて告白した所の、彼の告白を、無慙にも公判廷で申述べねばならなくなった事を余程心苦しく思ったに相違ない。彼は数年の後当時を回顧して、こう云っている。

「殊に予は予の立脚地として、社会公衆の前に訴うべき一事があるのである。それは裁判法廷に於て、牧師の前に於てなしたる被告の精神上の告白を、証人として其まゝ裁判所が其内容を強要し得るや否やの点である。現に予は第一審に於て、当時の裁判長の前に於て、一旦此証言を拒絶したのであった。然るに、裁判所は合議の結果其権威を以て予に証言を強要し、以って当時被告支倉の姦淫に関する告白を其まゝ法廷の証言として仔細を述べしめたのであった。これ牧師たる予の今に至るまで承服し得ない所である」

右の一文と当時法廷に於ける言葉で分る通り、神戸牧師は強き性格の人である。