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はせくらじけん

支倉事件

甲賀 三郎

「読売新聞」1927(昭和2)年1月15日~6月26日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 204,697 字 · 406 页

青空文庫

と同時に有名な大正の佐倉宗五郎事件が起った。

大正の佐倉宗五郎

「オイ、支倉の所へ変に嵩ばった小包が来たぜ」

「ちょっ、困るなあ、奴又何か手数をかけるんじゃないか」

刑務所の係員が二人、小包を中に置いて眉をひそめた。冤枉八年と大呼して監獄の名が刑務所と改まっても依然として未決監に蟠踞して、怒号し続けている支倉は、看守達に取っては好い客ではなかった。

「兎に角開けて見よう」

「宜かろう」

包みを解いて見ると、中から出たのは一襲の衣類、羽二重の白無垢である。

「うん、之は変ったものだな」

「奴、発心でもしたかな」

対手が死刑囚だけに白無垢と来ると余り好い気持がしない。二人の看守は薄気味悪そうに顔を見合せた。

「オヤ/\、何か字が書いてあるぜ」

「成程、之は確に字だ」

羽二重の白無垢を拡げて見ると、襟の所に黒々と、「東京未決監未決八年、冤枉者支倉喜平」左右に割って二行に染めつけてある。

「例の文字だ」

「いかにも、執拗な奴だ」

二人は暫く襟の所を眺めていたが、やがて一人が裏を返すと驚いた。

「オイ/\背中にも文字があるぞ」

「こいつは大変な事が書いてある」

背中には大きな字で「大正の佐倉宗五郎」