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はせくらじけん
支倉事件
甲賀 三郎
「読売新聞」1927(昭和2)年1月15日~6月26日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 204,697 字 · 406 页
断じてそんな事はありません。ふむ、そうかと云う調子で、何で庄司が自分に利益の陳述をするものか。恨めしいのは裁判長である。
支倉の我事ならざる恨みは裁判長に集中して終った。こゝに彼は筆を取って最後の恨みの言葉を裁判長に送った。然し、彼とても之が効果があるとは思わなかった。いや、彼は最早常識で律する事は出来ぬ。彼は半ば夢中で、只感情の逸るまゝに書いて/\書き抜いたのである。宛然老婆の繰言であるが、燈火の消えんとして一時明りの強くなる類で、彼の未決八年冤枉を叫び通した精力が、今や正に尽きんとする時に当って、一時パッと力づいたのであろう。
支倉は公判直後より筆を起して正に三日を費やして、六月十七日に裁判官忌避を申請したのである。
「私は因藤裁判長殿を忌避いたします」
忌避の理由
一、只今自分の事件とせられとる事は因藤裁判長が庄司利喜太郎に対し秩序を立てゝ、しかとした御訊問さえ下さりゃ、すべてが明瞭になるのであります。
一、私はそれをして頂きたい事から前以て上願書及庄司利喜太郎に対し斯う云う事を訊問して頂きたいと云う、其の事項を書いて、チャンと裁判所に出してあるのです。