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はせくらじけん
支倉事件
甲賀 三郎
「読売新聞」1927(昭和2)年1月15日~6月26日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 204,697 字 · 406 页
岸本は石子刑事が未だ所謂官服で神楽坂署内の交番で立番勤務をしていた時分に、交番の近所にいた不良中学生だった。眉の濃いきりっとした顔立の少年で、どことなく不良にして置くのは惜しいような気がしたので、石子刑事はそれとなく善導につとめたのだった。その甲斐があって、彼は非常に感激して、後には別人のようになり、基督教信者になって、真面目に勉強するようになった。所が家庭の事情で、どうしても学校を続けられない事になり、石子刑事も、いろ/\尽力してみたが、遂に力及ばず、岸本青年はとうとう中学を中途で廃業して、聖書販売人になったのだった。彼は今でも石子刑事の恩義を忘れないで、時折は刑事の宅を訪ねた。石子が私服に出世した時に一番喜んだのは本人の次には恐らく彼だろう。
その晩、岸本は暫くもじ/\していたが、
「石子さん、実は信仰仲間を傷つけたくないのですが、大分以前から聖書を盗む奴がいるのです。大方当りはついているのですけれども、一つ教会の信用を損わないように挙げて下さらないでしょうか」
彼の云う所によると、横浜の日米聖書株式会社と云うので、久しい以前からちょい/\聖書が紛失する。