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はせくらじけん

支倉事件

甲賀 三郎

「読売新聞」1927(昭和2)年1月15日~6月26日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 204,697 字 · 406 页

青空文庫

「ふん」

逐一話を聞いた根岸刑事はじっと考えながら、

「古い事だし放火の方は本人に口を開かせるよりほかはないね。女中の方は成程疑わしいには疑わしいが、何にしても死骸が出なくては手がつけられない。ひょっとすると生ているかも知れないからね」

「然しね、根岸君」

石子は云った。

「三度移転して三度ながら火事に遭っているとは可笑しいじゃないか」

「うん、確に可笑しい。三度ともと云うのは偶然過ぎるからね。所がね石子君、困る事はそう云う偶然が絶対にないと云うことが出来ない事だ。何でも一度は疑って見る、之が所謂刑事眼で、又刑事たるものは当然、然あるべきなんだが、之が刑事が世間から爪弾きされる一つの原因になっているんだから困るよ。職業は神聖である。刑事も一つの職業である。刑事たるものは絶えず人を疑わねばならない、だから人を疑うのは刑事としては神聖な訳じゃないか。ハヽヽヽ」

「君の云う通りだ。ハヽヽヽ。然しね君、支倉のような遣方では刑事ならずとも疑わざるを得んじゃないか」

「全くだ」

根岸はうなずいた。

「そこで一つその三度の火事についても一つ疑って見ようじゃないか」

根岸は腕を組んで考え込んだが暫くすると元気よく云った。