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はせくらじけん
支倉事件
甲賀 三郎
「読売新聞」1927(昭和2)年1月15日~6月26日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 204,697 字 · 406 页
電話を聞いた刑事にそう云うと、根岸は石子の方を向いて云った。
「石子君、荷物の追跡だ。第一に運送店を突留めるのだ」
分り切った事まで指図がましく云う根岸の言葉は決して愉快ではなかったが、今の石子刑事にはそんな事を考えている余裕がなかった。彼は折好く居合した渡辺刑事と一緒に足取も軽く、今度こそは逃さないぞと云う意気込で三光町に出かけた。
隣家について聞いて見ると、出した荷物は支那鞄に柳行李合せて四、五個らしく、手荷車で引出したのだが、さて運送店の事になると少しも手懸りがない。引出す所を目撃していたと云う女中にいろ/\聞いて見たが、半纏の印さえ覚えていないのだ。只提灯は確になかったと云うから、そう遠くへは運び出したとは思われぬ。
「何か覚えていませんか。一寸した事でも好いんですが」
石子は一生懸命に聞いた。
「何でも好いんです。何か目印になるようなものはありませんでしたか」
女中は泣出しそうな顔になってじっと考えて居たが、やがて細い声で切々に答えた。
「半纏の背中が字でなくって赤い絵のようなものが描いてありました。背の低いずんぐり肥った人でした」
「どっちの方から来てどっちへ行きましたか」