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はせくらじけん

支倉事件

甲賀 三郎

「読売新聞」1927(昭和2)年1月15日~6月26日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 204,697 字 · 406 页

青空文庫

彼女は通りから横丁に這入り、左に折れ、右に曲って細々した家が立並んで、時に埃の一杯散かっている空地のある新開地らしい路を縫って行く。やがて一軒の西洋風の鳥渡した木造建築の前に立止ったが、直ぐその中へ消えた。

怪しい男はその家の前でピタリと止った。

標札には中野同仁教会、ウイリヤムソンとあった。

怪しい男は教会の前をブラ/\往ったり来たりして、中の様子を覗った。生憎日が未だ暮れ切らないで、通行人も相当あったし、疑われないようにするには余程骨が折れた。と云って四辺に身を隠す蔭もなかった。

「ちょっ、おまけに粗末ながらも洋館と来てやがるので、中の様子が少しも分らない。いっそ中野署へ電話をかけて応援を頼もうか」

と怪しい男は呟いた。

彼は神楽坂署の根岸刑事だったのである。彼は支倉の家から荷物を運び出したと云う事を聞いた時に、小首を傾けた。夜分人知れずやるのなら兎に角、白昼車を引出しては人目を惹くのは知れた事、直ぐに送先を嗅ぎ出される位の事は支倉は知っている筈である。但し、こっちで油断していると思って、そっと運び出して知合の家にでも預けて置いて、気のつかないのを確めた後に受取にでも行く計画か、そんなら態とこっちも気がつかない風をして対手を油断させ、それとなく家を警戒していて、ノコ/\受取りに来る所を捕えるのが上分別